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「テクノロジーだけでは解決できない」社会課題に立ち向かう超現場主義なアプローチ

日本は介護問題の課題先進国といわれます。介護人材の不足は深刻で、2025年までにあと約32万人必要になると予想されています。圧倒的な高齢化社会でありながら、それを支える働き手が少ないのが現状。テクノロジーの力を駆使しなければ成り立たないような状況になってきています。

コニカミノルタでは、そうした介護業界の課題解決を目指したブランド「HitomeQ(ヒトメク)」を2019年から展開しています。今回はHitomeQのデジタルマーケティングを担当する斉藤朋之さんに、日本の大きな社会課題に立ち向かう現場のリアルを伺いました。

斉藤 朋之さん

大学院で機械工学を学んだ後、2009年にコニカミノルタに入社し、エンジニアとして複合機の機械設計を担当。2014年に業務革新部へ異動し、働き方改革を推進。2017年にQOLソリューション事業部へ異動し、「HitomeQ ケアサポート」 の「導入支援サービス」や「業務診断サービス」を開発。現在はHitomeQのデジタルマーケティンググループリーダーとして、マーケティング戦略立案、MAツールによる顧客ナーチャリング、インサイドセールス部門の統括など幅広い業務を担う。趣味は音楽。ビートルズをはじめ、洋楽ロックが好き。社内の軽音班の班長でもある。

介護スタッフの熱意にテクノロジーで応えたい

──まずは、現在、斉藤さんがデジタマーケティングを担当する「HitomeQ(ヒトメク)」について教えてください。

HitomeQは介護業界の課題に対して、コニカミノルタがカメラ事業などで培ってきた映像技術を活かして何かできることはないかと考えて、2016年にサービス開始したケアサポートソリューションをベースに、より介護業界に価値提供をしていくため2019年に立ち上げたブランドです。 “ひらめき”や“きらめき”という意味を込めており、すべての人が輝ける世界をつくりたいという想いがあります。

主力となるHitomeQ ケアサポートは介護施設向けの見守りシステムやデータプラットフォームの位置づけで展開しています。天井にセンサーを取り付けて、入居者の行動を解析し、何かあれば介護スタッフのスマートフォン(以下スマホ)に映像とともに通知します。声のやりとりもできるので、映像と合わせて状況を判断でき、とくに問題なければ毎回部屋へ行かなくてすみます。

──導入によって介護施設には具体的にどんなメリットがあるのでしょうか?

まず、現場の介護スタッフのみなさんは「入居者の方により良いケアをしたい」という想いがとても強いんです。私たちはそれにテクノロジーで応えたいと思っています。HitomeQを導入すると24時間365日センサーが作動するので、日常動作の変化や行動習慣などのデータが集まります。たとえば、お昼寝の多い入居者の睡眠の状態をチェックしてみたら、実は夜にちゃんと眠れていなかったことがわかれば、その人に合わせたケアができるようになりますよね。今後、HitomeQのようなテクノロジーを活用することで、1人のスタッフがもう少し多くの入居者を見ることが認められれば、人材不足も緩和できるはずです。

──業務効率化だけでなく、ケア品質の向上にもつながるのですね。

そうです。ただ、現状は「介護は人がやるもの」というイメージがまだ強く、機械やロボットに頼るのは冷たい印象を持つ方もいます。介護業界は転職が多く、施設側の採用の負担も大きくなっていますが、介護スタッフにゆとりが生まれれば働きがいも感じやすくなり、定着率も上がっていくと思っています。HitomeQが目指すのは、介護施設になくてはならないインフラのような存在です。

介護ベッドの真上にある行動分析センサーがスマートフォンと連動し通知するシステムHitomeQ。

大企業とスタートアップのいいとこどりな雰囲気

──斉藤さんは、マーケターとして活躍していらっしゃいますが、もともとエンジニアだったんですよね??

はい。大学院ではロボットの研究をしていて、入社直後は複合機の開発部署へ配属になりました。複合機の開発もおもしろかったのですが、「世の中にないものを作りたい」という想いをもっていましたね。それでエンジニア時代には、社内コンペで子ども向けのプラネタリウムの教育プログラムを提案したこともあります。そんな想いを会社は汲んでくれたのか、介護業界を変革する可能性を秘めた新しいサービスであるHitomeQの担当部署へ異動になったときはうれしかったですね。自分で何かしら動いていれば、ちゃんと見てくれてチャンスを与えてくれる会社であると思います。

──HitomeQの事業部と複合機の事業部、同じ会社でも雰囲気は違いますか?

カルチャーはかなり違いますね。HitomeQの事業はアジャイル開発で意思決定のスピードも速く、失敗からも学びを得て、どんどん挑戦していこうという雰囲気。ベンチャー気質がある部署だと感じます。それでいてコニカミノルタは大企業なので、技術面の特許の専門部隊がいます。スタートアップ風の気質と大企業の安定感、この相乗効果のいいとこどり感はあります(笑)。

斉藤さんがかつて担当した複合機の後継機種。当時ベルト部分の設計が実際に採用された。

社会課題解決に必要なのは泥臭いほどの現場主義

──実際に斉藤さんは配属されてどんな風にこの事業に携わってきたのでしょうか?

私がHitomeQ担当になった2017年に、まず取り組んだのはお客様へのサポート体制の構築です。2016年から商品はすでに販売していましたが、なかなか想定したような使い方をしてもらえず、導入施設様からのクレームもありました。遠くのお客様でしたから、エンジニアは泊まり込みで作業をしたのですが、それでも解決せず……。

──クレームですか。HitomeQは「センサーが異変を察知すればスマホに通知が届く」という比較的シンプルなシステムに思えるのですが……。

それが、そう単純でもないのです。たとえば通知一つとってもベッドから起き上がったときや、ベッドから離れた時など、何種類もあってこれらすべての通知が必要な方もいれば、一部だけでよい方もいます。 全員にすべての通知をオンにすると、通知がひっきりなしに鳴ってしまい、かえって現場が回らなくなってしまいました。現場では、通知が届くと反射的にお部屋に走って向かう習慣があったんです。本来はスマホの映像で問題ないことを確認できて部屋に行く回数を減らせるはずが、逆に「通知が増えて訪室回数が増えて大変になった」と言われてしまいました。

通知が来ればリアルな状況が確認できる。近赤外線カメラなので夜でもよく見える。

──なるほど。そうなると、介護スタッフの働き方をまず理解する必要がありそうですね。

そうなんです。最適な提案をするには、本当に介護の現場やケアについてわかっていないと難しいということを実感しました。そこで、開発や生産現場にいた技術系の社員も介護の勉強をして、介護の初任者研修まで修了して現場に入り、運用が安定するまでサポートする体制を整えました。 現場に入り込んで課題を分析していくこの伴走支援はコニカミノルタの強みの一つで、介護業界を変えていくという本気度が現れていると思っています。他社に「真似できない」といわれることもあります。

──その体制後、どのようにサポートしているのでしょうか?

まず「商品を入れてからがスタートです」とお客様にはお伝えしています。 そんなところからという話ですが、2017年当時はまだ今ほどスマホが普及していませんでした。現場では介護スタッフのみなさんに「ここをタップして」とか「拡大は2本指で」など、スマホの使い方から教えたこともあります。

なかには「テクノロジーは嫌いだ」とはっきりいう方もいましたし、従来の働き方を変える難しさを感じましたね。 とはいえ、各自の判断で動いてしまうと運用が安定しませんから「この通知がきたら、こう動く」と運用ルールをつくるところまで一緒にやっています。割とコンサルティングに近いですね。

──それまでの働き方を変えるのは地道で難しそうですが、ただ目先の課題解決ではなくもっと根本的な変革に挑戦しているとも言えそうですね。

課題解決は現場を知ることが重要です。それは、我々もそうですし、施設側にも介護スタッフや入居者の方の現状を把握したいというニーズがあります。運用を開始し、データがたまると、私たちも施設の方もたくさんの気づきを得られます。 たとえば、ベテランスタッフなら経験と勘でできることも、若手のスタッフには難しいことも多い。でも、こうしたデータを使えば施設全体としてのケア品質を高めることにつながり、ひいては介護スタッフのやりがいを生み出せると思っています。

入居者の生活リズムをデータ化し可視化するアプリケーション「ケアルーペ」。データの分析をすることでケアの質を上げることができる。

日本は「課題先進国」だからこそ、世界をリードする技術を開発できる

──社会課題を解決しようとしているという実感はありますか?

実際に「離職率が減った」とか、「いつもと違う入居者の動きをいち早く察知できて助かった」といった話を現場で聞くことも多く、自分たちのサービスが役に立っていることが嬉しいですし、実感するところもありますね。

──それが斎藤さんの仕事のやりがいにもつながっているのでしょうか。

そうですね。あとは、よく「破壊と創造」と表現していますが、私たちは介護業界の固定観念にとらわれず、本当に世の中にこれまでなかった新しいものをつくっている自負があります。

たとえば、今では当たり前の見守りシステムでの映像利用も、プライバシーの問題から以前は普及していませんでした。HitomeQでは、センサーが異変を感知したときにだけ、カメラ機能がオンになるようにプライバシーに配慮してあえてシステムに制限をかけたので、これまでタブーとされていたカメラを居室に設置することを可能にしました。また、導入や定着までの伴走支援の体制を構築したのも、私たちが最初だと思います。

最近は介護業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に進めようという話になっています。ただ実際には、トランスフォーメーション(変革)までいかずに、単なるデジタル化で終わっているケースも少なくありません。そんな中、世の中を変えようとする最先端にいて、実際に世の中を変えつつあるんだという実感まで持てるのは大きなやりがいですね。日本は世界的にみても高齢化の課題先進国なので、将来的にサービスは世界へも展開していける。非常に大きなインパクトがある仕事だと考えています。

天井に取り付けてあるHitomeQのセンサー。入居者の方が違和感を感じないように、カメラに見えない形状に。

──今後の目標や展望を教えてください。

まずはこのHitomeQをさらに普及させて、より多くの方に使っていただきたい。一緒に世界を変えていきたいです。

個人的な展望としては、最近、ブランド認知活動の一貫としてHitomeQウェブセミナーや講演をしているのですが、これがすごく楽しいので、機会を増やしていきたいですね。それによって会社に貢献できるのはもちろん、一社会人としてのブランディングにもつながっていると思っていて。今は自分が好きなことを仕事としてやれている理想的な環境にいます。これからも会社とは単なる“雇い、雇われ”ではなく、互いに価値を提供しあえるような関係でいられたらいいなと思っています。

─インタビューを終えて─
テクノロジーはそれ自体が課題を解決する魔法のツールのように感じてしまいがちですが、社会問題に挑む現場は実はもっとアナログで泥臭いもの。現場でその泥臭さにきちんと向かい合わないかぎり、大きな変革を生むのは難しいかもしれません。「社会課題を解決する」ことは、徹底した現場主義から生まれているもの、そしてただツールを売るだけではなくお客様と一緒に解決を目指し、併走していくことだということに気づかされました。

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