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小さなデバイスでも性能と速度を両立できる高度なAI。その開発の秘訣とは

AIには、それを生み出した企業の色が少なからず反映されるもの。
コニカミノルタが開発するAIには、どのような色が映し出されているのでしょうか? その答えに迫るべくお話を伺ったのは、FORXAI事業統括部 FORXAI推進センター AI技術開発部の山野文子さんです。
コニカミノルタがAI開発で注力している分野は大きく3つあります。1つ目は、画像から人を検出して、その人がいる場所や行動を明らかにする「人行動」。2つ目は、画像から病気を診断する医師の意思決定などをサポートする「先端医療」。そして3つ目は、工場で作られる部品に傷がついていないかなどを診断する「検査」です。その一つである「人行動」画像処理技術の専門家である山野さんによると、「これからはいかに新しいAIを作るかよりも、いかにAIを使いこなすかが重要な時代になる」とのこと。
山野さんたちが未来を見据えて開発に取り組んでいる「コニカミノルタのAI」の特徴について、詳しく教えてもらいました。


山野 文子さん

大学で情報工学を学び、画像処理を研究。卒業後、ソフトウェア企業に入社しネットプリントサービスの開発に従事。2010年に大学院・博士課程に進学し、博士学位を取得。画像処理に特化するソフトウエア研究所での勤務を経て、2018年コニカミノルタに入社。2023年にエグゼンプト(管理職)となり、5名の部下とともに幅広い領域でのAI活用に取り組んでいる。

 

最先端の画像処理技術を活用したAIカメラが、生活の安全を守る

──はじめに、現在の仕事内容を教えてください。

FORXAI事業統括部 FORXAI推進センター AI技術開発部という社内横断組織に所属し、さまざまな事業部に汎用的なAI技術を提供しています。私が主に取り組んでいるのは、「人行動」の分野です。事故防止や防犯のために異常行動を検知し、スタッフや警備員に知らせるAIカメラなどの開発を行っています。

スタートアップの企業から転職してきた山野さん。今は事業にまたがる基礎研究をしている。

──画像処理の技術を人々の安全な生活を守るために活用しているのですね。山野さんは「コニカミノルタのAI」の強みは何だと考えますか?

最も大きいのは、ソフトとハードをセットで開発していて組み合わせられる点だと思います。
ほとんどのAI開発会社はソフトだけを自社で開発しているので、そのAIを実際に使うには、カメラなどのハードを外部から調達する必要があります。しかしコニカミノルタは、ソフトもハードも自社で開発しており、組み合わせてお客様へ提供することが可能です。お客様が面倒なセットアップを行う必要なく、簡単にAIカメラを導入できる、この容易さは大きな強みだと思っています。また、AIとそれを駆動させるデバイス同士で補完させあったりすることによって最大効率で駆動させられたりするシナジーも強みですね。

デバイスは複数組み合わせることもできるので、一つのデバイスだけではできないことが可能になるという点も、大きな武器だと思っています。

「性能と速度はトレードオフ」の常識を覆した、繊細なAI開発

──製品開発に取り組む際には、どのようなことを意識していますか?

デバイスは小さければ小さいほどお客様のスペースを使わずに済みます。そのため「いかに小さなデバイスに高性能なAIを載せるか」という点にはかなりこだわっています。

一般的に、性能と速度はトレードオフの関係にあるので、速度を落とさずにより良い性能を発揮するためには、ハードのスペックを高めなければなりません。しかしハードのスペックを高めようとすると、どうしてもデバイスのサイズが大きくなりますし、価格も高くなってしまいます。そこで私たちは、AIの構造と処理速度の関係に関するノウハウをフル活用することによって、小さなデバイスでも高いパフォーマンスを出せるような工夫をしています。 この繊細なバランスの取り方は、AI開発者の腕の見せ所ですね。

カメラ機能だけではなく、小さなデバイスに高速高性能なAIが搭載されている。

──バランスをとるというのは開発者のセンスによるともいえるのでしょうか?

そうですね。私たちは、「少ないデータ量から高精度な予測が行えるAI」を開発しました。ここには当社の最先端技術が使われています。

「何が異常事態なのか」をAIに学習させるためには、従来では何十万枚という画像が必要とされてきましたが、私たちはさまざまなパターンを最小の構成で学習させることにより、少ない画像数でも高精度が出るAIの開発に成功しました。また最低限必要な画像データの生成は、最近はCGを使うのが一般的であり、多くの会社がデータ生成会社にその業務を依頼しています。一方コニカミノルタは自社でCGデータの作成を行えるため、本当に欲しいデータを最短距離で入手することができるのは、私たちAI開発者にとってかなりのメリットだと感じています。

──コニカミノルタのAI製品が生まれる背景には、そのような開発環境の利点があったのですね。今後、AIを活用した画像処理ビジネスの業界はどうなると思いますか?

AIはすでにコモディティ化が進行しているので、今後AI単体で価値を出すのは難しくなっていくと思います。これからはAIを何と組み合わせるか。つまり、「いかに新しいAIを作るかよりも、いかにAIを使いこなすか」が重要な時代となるでしょう。

その点、当社にはAIをハードと組み合わせて開発できるという強みがあります。実際に現場で使われることによって価値を生み出す「コニカミノルタ色のAI」を世の中に浸透させることによって、今後私たちのAIが存在感を高めるチャンスは大いにあると考えています。小型のデバイスでマルチモーダルが可能だからこそ、街中のいたるところで日常に溶け込みつつ防犯を支えたり。安心安全な社会への貢献ですね。

「博士っぽくない」AI開発者の私だからこそ、叶えられること

──山野さんは2018年にコニカミノルタに中途入社しました。AIを扱う会社が数多くある中で、コニカミノルタを選んだのはなぜですか?

転職活動時には、画像処理の分野に力を入れている会社をいくつか見て回りました。その中には、単に「トレンドだから」という理由で画像処理に関する事業に取り組んでいる企業が多かったんです。そうした企業はトレンドが去れば、事業そのものを廃止してしまう可能性があると感じました。

しかし私は、画像処理の分野で着実に知見を深めていける会社を探していたので、「AIが話題になる前から画像処理に取り組んでいたコニカミノルタならば、事業の存続をトレンドに左右されることはない」と考え、当社を選びました。

──実際に働き始めてから気づいたことを教えてください。

AI製品の開発において成功を左右するのは、「いかに良い仮説を立てられるか」だと思っています。コニカミノルタでは営業やハード開発の担当者などと連携して開発を進めていくのでさまざまな視点が加わり、プロジェクトの初期段階から良い仮説が生まれやすい環境があるということですね。

一般的に、ビジネスサイドの方はAIに期待しすぎるあまり「100%」のような非現実的な精度を求めてしまうことがあるのですが、当社ではお互いの事情を把握した上で、きちんと話し合いながら現実的なラインを擦り合わせることができます。 コニカミノルタの製品は私が関わっている分野に限らず、さまざまなプロフェッショナルが協力し合うことによって生まれています。そのため、どの領域の人も自分と違う専門領域を持つ人と話すことに慣れていますし、「お互いに協力し合わなければ始まらない」という意識を共通して持っているように感じますね。

「会社規模の大きさも決め手の一つ。できるだけ多くのアプローチ方法を持っていた方が、よりインパクトの大きな挑戦ができる点も魅力的」と話す山野さん

──山野さんは2023年にエグゼンプト(管理職)になられたとのことですが、今後のキャリアについてはどのように考えていますか?

私は博士学位を取得していますが、同僚から「あまり博士っぽくないね」と言われるんです(笑)。と言うのも、自分のような経歴を持つ人はAI技術の深掘りに関心を持つ人が多い一方で、私自身は「AIをいかに現場で実装するか」に関心があるからです。

私は技術屋さんだからといって、お客様のニーズを知ることを諦めたくありません。ものづくりをするエンジニアとしてお客様の声を聞き、新たなソリューションの必要性を見極めた上でAI開発者に正確なパスを出す。そういう仕事の方が自分には合っていると思うので、これからも開発者集団を動かすマネジメントとしての役割を担っていきたいです。

──最後に、今後の展望を教えてください。

「コニカミノルタといえば、こんなAI技術だよね」と言われるような、尖った技術やソリューションを開発したいです。そのためには、私たちのAI技術をハードなどの他の要素と掛け合わせて、今まで以上にコニカミノルタ色を出していく必要があると考えています。

これからも「画像処理の技術を活かして生み出す製品やソリューションを、いかにビジネスとして成立させるか」というテーマに、AI開発者として貢献していければと思います。

 

─インタビューを終えて─
AI製品を開発するプロジェクトにおいて、現場に赴いたり、お客様から直接お話を聞いたりすることを厭わない山野さんの姿は、AI開発者に対する一般的なイメージとは一線を画するものだと感じました。「博士っぽくないと言われるんです」と笑う山野さんの笑顔は、コニカミノルタ色の「現場で価値を産むAI」が生まれる理由を物語っているようでした。

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